在籍10年。栃木SCを牽引し続けてきた功労者、廣瀬浩二が引退会見。「これから自分の人生において(携わるクラブが)J1で戦えるクラブにすることだったり、何らかの形でJ1のピッチに立っている状況は不可能でないので、まだ自分がJ1の舞台に立つ姿は諦めていません」【記者会見】【無料掲載】(19.11.5)

廣瀬浩二、菅和範。栃木SCを今なお引っ張り続ける2人だ。
――プロキャリアは14年間でしたが、栃木でも廣瀬選手をお手本にしてきた選手たちもたくさんいると思います。プロとして一番大事にしてきたことは。
「妥協しないことですね。一見簡単そうですが、すごく難しいことなんですね。プロサッカー選手は活躍すれば周りからチヤホヤされるし、メディアの方々にすごく取り上げられて、写真が載り、記事が載り、サポーターの方々からは『サインください』と言われたりするのですが、そこで調子に乗ってしまうと自分のいい流れは一瞬で終わってしまうんです。ただ、そこで調子に乗らずにずっと愚直に続けていければ、もっと大きな選手になれるし、日本代表にも行ける可能性は出てくると思います。妥協しないというレベルを上げることが人間として大きくなれることだとずっと感じてきました」
――妥協せずにやろうとすると、必ず苦しい状況にぶつかると思います。その中でやり続ける大事さは、廣瀬選手がよく言われていました。苦しいときに「ここで守備に戻らなかったらあとで後悔する」と、歯を食いしばって妥協せずにやってきた、というエピソードを思い出すのですが、その辺りのメンタリティは、今後の栃木SCを担う選手たちや若い選手たちにも思いを託したいと思っていると思います。
「粘り強く頑張るというのは、能力でも才能でもないと思うんです。頑張れば誰でも戻れるし、サボれば戻れないわけです。それは普段の練習から自分に言い聞かせながらやらないと試合でできるはずもありません。そんな甘い世界ではないし、甘いことを覚えてしまうと人間はすぐに甘えてしまうものなので。だからこそ、練習で誰かが歯を食いしばったような良いプレーをすれば、僕はそのときこそすごく褒めるようにしているし、そういう雰囲気を作っていければ選手たちは誰もが気持ちよくプレーできます。頑張ることが気持ちよく感じることができれば、その頑張るレベルをお互いが競い合い、高いレベルに引き上げることができると思うんです。僕は上手い選手ではないからこそ、その細部にこだわったからこそ、現役を長くやってこられたと思っています。その粘りとか頑張りとかいうのは、自分に勝てば絶対に頑張れるものです。プロだけではなくて、小学生だったり中学生だったり高校生でも、チームを救うための頑張りというのは絶対にチームに必要なので、頑張って欲しいなと思います」
――栃木SCは窮地です。残り3試合、栃木SCがより良くなっていくために必要なものは。
「これはチームミーティングで何度も話したのですが、言葉では簡単ですが、チームがまとまるということです。一人ひとりがエゴを捨てて、チームが勝つためにまずはこういうプレーをしよう、ということをファーストチョイスしないといけない。勝つために全員がまとまってプレーすることは今週のミーティングでも強調しました。菅もすごく伝えてくれています。その意味で、今日の新潟戦の勝利は自分たちが執念で持ってきた勝点3だと思います。今日は新潟からもサポーターが大挙して、サポーター同士の戦いもあったと思っているんです。あの新潟の大勢のサポーターに対して、栃木のサポーターも負けない迫力や声量で応援してくれてて、そういうサポーターも含めたピッチ上のチームのまとまりというものが、一丸となって戦うことに繋がったし、それがもたらした勝利だと思うので、残りの3試合も引き続き、スタジアム中が結束した力が大事だと思います」
――この10年間、一緒にプレーした黄色の戦士たちの中で特にインパクトに残っている選手がいれば教えてください。
「栃木に加入した当初の(リカルド)ロボはすごかったですね。これぞストライカーという感じの性格でした。僕らにすごい要求してくるんですね。ロボが当時尊敬していたのは、当時在籍していたヨネさん(米山篤志)と(佐藤)悠介さんだけで、僕が試合に出ていると『おい、浩二!』と言ってくるんですよ。いやいやお前一個下やろと。よく喧嘩はしていたんですけれど、ただゴール前の集中力であり、ゴールを決めるためのステップや反応の速さは口で言ってくるだけのことはあるなと。なのであいつの実力で黙ってしまった僕がいましたね。あとはパウリーニョはあんな律儀なブラジル人は知らないですし、敬語が使えますし、自分が何か知らない言葉があるとメモ帳を持ってきて『浩二、それなんて言う意味?』と日本語で聞いてくるんです。お前そこまで日本語話せるならもうわかっているやろと。すごい勉強熱心で、サポーターに愛されて、サポーターも愛して。気持ちのいい選手でしたね。あと日本人では、そうですねえ、長くなると菅とか。あ、皆さんご存じじゃないかもしれませんが、背番号7の菅和範という選手がいるんですけど、あの選手とは長い付き合いで、僕が何かを言う前に気づいて飲み物を持ってきてくれたり、菅だけに感度を上げてやってくれているんです。あ、菅のせいで滑りましたよね、今(笑)。あとは子どもができて家族同士の付き合いも多くなったので、僕もそうですが、妻たちが仲良くしている姿を見ると、色んな選手たちがここからいなくなっていることもあり、改めて自分は長くいるんだなあと思ったりもしますね」
――引退を決めたときにチームメイトにはどのタイミングでどのように伝えたのかを教えてください。
「チームメイトには今週(新潟戦の前週)の初めのミーティングで伝えさせていただきました。残り4試合の時点でやるしかないという状況でした。僕がそういうミーティングをやろうとするときは、まず菅と個別に話をするのですが、僕が『シーズンが終わったあとにあのタイミングでミーティングをするべきだったとは思いたくない』という話をしたときに『そう思ったのならばやりましょうよ』と菅が言ってくれたんです。それで、菅にだけはそこで『俺は今季限りで引退するから』という話をさせてもらいました。その日の夜にもう一回彼からLINEが来たんです。『気の利いたことを言えずにすみませんでした。いきなりのことで頭が回りませんでした』と。そのLINEの文章も間違っていて、どこまで頭が回らへんのやと思いましたけどね。その次の日のミーティングでみんなにお願いをしました。残り4試合、どんなことがあってもチームが勝つためにやろうと。全員が同じ方向を向いてやってほしいと。いや、結構強めの口調で『やってくれ』とお願いしました。そのあとに『個人的な話だけど、今季限りで引退することを決めました』と伝えたんです。『だから俺のためにも勝ってくれ。残留して引退させてくれ』という話はしましたね」
――奥様やご両親は引退の報告は。
「妻とは去年の段階からそういう話はしていました。よく『サッカー人生が長いですね、頑張りましたね』と言われるのですが、ここからの人生の方がよほど長いので、その意味で僕が勝手に引退することを決めるわけにはいきません。妻は僕の決断に口を挟まないと思いますが、そういうことを考えていることは今季が始まるときに伝えていたし、今季が始まるときに『これが最後だと思ってやる』という話をしました」
――そこでかけられた言葉は。
「そうですね。まだ何もかけられていないと思います。妻として今季が終わるまでは言わないようにしてくれているのだと思います。それよりも一番印象に残っているのは、10年前、僕がサガン鳥栖をクビになったときに『死ぬわけじゃないのだから大丈夫よ』と言われた言葉は心強かったですね」
――今日のゴール裏にはサポーターから廣瀬選手への横断幕が出ていました。廣瀬選手にとってサポーターの存在とは。
「サポーターを良く言おうとする気持ちは全然ないのですが、本当に栃木のサポーターはあたたかいと思います。もちろんヤジもあることはありますが、ヤジももっと言われてもいいやろと思うときもあります。僕らがやっているのはプロサッカーなので、プロは結果を出すことがすべてだと思っているので。今季はずっと勝てない試合が続いていて、僕たちも悔しいですし、それでもサポーターの方がなぜスタジアムに来るのか、それは自分が応援するチームが勝って自分が喜びたいですし、日頃、色んな会社で働いていたり、学校に行ったり、家事をしたりしている方々が、スタジアムまで来て、好きなチームを応援して勝ったときの喜びは何にも変え難いと喜びだと思うんです。喜ぼうと思っている中でスタジアムに来て、それでも今季は逆にストレスが溜まる状況が続く中だったにも関わらず、あれだけ我慢強く応援してくれるのは頭が下がる思いです。あの沼津戦、昇格がかかるゲームであれだけの人たちがアウェイに駆け付けてくれるというのは、栃木SCにとっての宝です。僕にとっては10年間お世話になったサポーターであり、特別な存在です。何よりサポーターが今日も僕のコールをかけてくれたことはすごく嬉しかったです。すごい心強い存在です」
――廣瀬選手にとって栃木SC、そして栃木とはどのような場所ですか?
「栃木で子どもたち二人が生まれて、妻と二人で子どもを育ててきました。先ほども言いましたが、僕は人に恵まれていて、両親が遠い場所にいるのですが、何か困ったときには必ず誰かが助けてくれたり、チームメイトの誰かが手助けしてくれたり。子どもたちからすると栃木しか知らないので、子どもたちにはここが故郷ですし、僕にとって栃木は自分を支えてもらえる土地であり、恩返ししたい土地ですね」
廣瀬浩二の選手としての雄姿が見られるのはあと2週間とちょっと。「残留して引退させてくれ」。栃木に多大な貢献をしてきた廣瀬のためにも、残り3試合、何が何でも残留を掴み取りたい。廣瀬浩二についてはまた何らかの形で記事にする予定だ。