「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

【無料記事】【インタビュー】栃木SCアカデミー 「真の栃木県のチームは必ず作れる」。ミスター栃木SCと呼ばれた情熱の男、只木章広育成部長が掲げる哲学により躍進する栃木SCアカデミーの現在地。

 只木章広(ただき・あきひろ) 1975年4月16日、栃木県宇都宮市生まれ。真岡高、順天堂大学を経て99年に栃木SC入り。当時関東リーグだった栃木SCをJFL(日本フットボールリーグ)昇格に導いた。その後主将を務めるなど背番号10を背負って中心選手として活躍。06年の第86回天皇杯では4回戦の清水エスパルスとの4対6の死闘では反撃の口火を切るゴールを決めた。この戦いは全国各地に知れ渡り、栃木SCのJリーグ参入への動きを強力に推し進めた。06年限りで栃木SCを退団すると、その後はヴェルフェたかはら那須でプレーした後、現役を引退。サッカーへの情熱は冷めやらず15年3月を持って栃木県職員を退職、同年4月より栃木SCジュニアユースの監督に就任。今季から現職に至る。

只木章広(ただき・あきひろ)
1975年4月16日、栃木県宇都宮市生まれ。真岡高、順天堂大学を経て99年に栃木SC入り。当時関東リーグだった栃木SCをJFL(日本フットボールリーグ)昇格に導いた。その後主将を務めるなど背番号10を背負って中心選手として活躍。06年の第86回天皇杯では4回戦の清水エスパルスとの4対6の死闘で反撃の口火を切るゴールを決めた。この戦いは全国各地に知れ渡り、栃木SCのJリーグ参入への動きを強力に推し進めた。06年限りで栃木SCを退団すると、その後はヴェルフェたかはら那須でプレーした後、現役を引退。サッカーへの情熱は冷めやらず15年3月を持って栃木県職員を退職、同年4月より栃木SCジュニアユースの監督に就任。今季から現職に至る。

かつて背番号10を背負い、その強烈なリーダーシップとブレない魂で『ミスター栃木SC』と呼ばれた情熱の男、只木章広がクラブに戻ってきてから1年が経つ。その只木氏がクラブの育成のトップに立ったのは今年初めのこと。そして今季は、ユースがクラブユース選手権の関東予選でベスト8入りし、クラブ史上初めて全国大会行きを決めるなど、ジュニア、ジュニアユース、レディースも含めてアカデミー勢の躍進が目覚しい。

今、栃木SCのアカデミーで何が起きているのか。育成部長、只木章広が見据えるものとは何か。8千字超のロングインタビューは、クラブの将来に関わる非常に大事なことばかりである。時間があるときにじっくりお読みいただければ幸いです。

 インタビュー内容をざっくりとまとめて言うと……
●アカデミーの哲学は『アグレッシブにやる』『人の心を動かす』『栃木愛を持つ』
●カテゴリー間で紅白戦をやるような機会をもっと増やしたい
●みんなが集まれるグラウンドがほしい。拠点を持つことが何よりも大事
●将来はトップチームの半分が地域の選手たちで占めるようにしたい
●今のアカデミーの子たちが順調に育つなどすればトップチームも5年で変わる
●只木流の強いチームは、戦えて、走れて、身体が張れること
 

アカデミーの哲学は『アグレッシブにやる』『人の心を動かす』『栃木愛を持つ』

 

――今年はユースの試合にジュニアユースやジュニアの選手たち、各カテゴリーの指導者たちが現場に駆けつけて一緒になって応援する一体感があるのですが、意図的にそうしているのですか?

「そうですね。保護者への説明会のときにも話しをしたのですが、今年のアカデミーは哲学を3つ立てています。『アグレッシブにやる』『人の心を動かす』『栃木愛を持つ』、この三つです。どれも分かりやすくシンプルに伝えられる言葉として選びました」

――アカデミースタッフで決められた。

「みんなでわかりやすいキャッチフレーズのアイデアを出し合って、どれがいいのかな、何をやればいいのかな、どういうビジョンやスタイルでやろうかと話し合いをして決めたんです。ピッチ内外のすべてにおいてのアカデミーの哲学になります」

――その三つのフィロソフィーに基づいて、子どもたちの行動などが変化していく、それが目指す先にはあると思いますが、イメージを教えてもらえますか。

「それはやっぱり“一体感”です。まずはアカデミーが一枚岩になること。これが大事で、僕らは哲学を作ったのだから、もしも迷ったら、哲学に基づいて良いと思うことはまずやってみる。たとえば、先日、ジュニアユースの3年生がユースの大事な試合の応援に駆けつけたんです。でも本来であれば次の日は関東リーグが控えていたので、かなりリスクはありました。でも、そこまでしてもやってみる価値はあった。やってみようと、(U-15監督の)花輪さんが音頭をとってくれたんです。だから、子どもたちも理想としては必然的に『俺らはアグレッシブにやっていくと決めたのだから応援するよね』『次の日が試合だとしてもやるよね』となっていく。現状ではまだまだそこまでにはなってはいませんが、ただ、自分たちに哲学があればやれるわけです。スタッフ同士も『もっとこういうやり方があるんじゃない?』。そんなふうにお互いに刺激し合えるのも哲学があるから。そうやって我々指導者やスタッフの質を磨かないと、絶対に子どもたちもよくならないですから」

――一体感というフレーズが強調されていますが、今はジュニアやジュニアユース、ユースの連携は密に取れているんでしょうか?

「そうですね。ただ、欲を言えば、カテゴリー間で紅白戦をやるような機会をもっと増やしたい。たとえば、ジュニアユースの1年生がレディースとゲームをやったり、ジュニアユースの3年生がユースと試合をやったり、というのはすでに実施しているので、なるべく会場も同じところで練習や練習試合を入れられるならば入れて、そこで多くのスタッフが子どもに関わって、保護者もいて、ユースとジュニアユース、レディース、ジュニアが繋がっていくようにやっています。そのために現状では当然スペースが狭くなったり、練習時間が短くなったりもしてしまいますが、それ以上に大切なことがあるだろうと」

――カテゴリー間の繋がりというところですね。

「そうですね。一体感、一枚岩です」

――現状では作新大グラウンドはユースが基本的に使用させてもらっていて、そこにジュニアユースがきて。

「週に1回ずつ、それもちょっと代わりながらですね。金曜日には中3が入り、火曜日は中1と中2が入らせてもらう。ジュニアも二週間に一度くらいは入れさせてもらっています。ジュニアも作大の人工芝でやれるようにして刺激を与えています。使える財産をみんなで共有していく感覚ですね」

――今は、作新大も部員数が増えてきて、今後栃木SCがグラウンド使用で制限が出てくる可能性があるそうですね。

「そうですね。状況は厳しいのですが、そこも次に向けてビジョンを考えています。もちろん作新大にも協力をお願いしながら、拠点となるグラウンドを確保できるように動いています」

――今ある構想はどんなものなんでしょう?

「理想は人工芝のグラウンドがベストですが、まずそれよりも大事なことは、やはり、繰り返しになりますが、みんなが集まれる場所が欲しいということ。拠点を持つことが大事。それはレディースも含めて一緒にやれる場所という意味です。一番いいのは、トップチームが練習をやっている河内総合で練習ができることなんですが、アカデミーが河内で練習をやるには天然芝だけでは養生が間に合わない。トップチームも二面を交互に使用してギリギリの状況(最近は壬生とさくら市も使用)なので。みんなが同じ場所で練習できて、かつ、人工芝というのがベストです」

――只木さんが一同に集まれる場所にこだわるのは一体感を出すため、ということですが、もう少しその理由を教えてもらえますか?

「単純には、我々の一番の仕事は、トップチームに選手を供給すること。栃木県民……栃木県民に断定しちゃいけないですね。栃木を愛する選手を育てること。栃木県民じゃなくても栃木県で戦いたい、そういう心を育てたい、そういう選手になってもらいたいという思いがあるからです。そうなったときに、やっぱり上のカテゴリーを近くで感じて、そのカテゴリーに進みたい、と感じてもらえるように繋げていかないといけない。そうなると、やっぱり直接、肌と肌で接しないと刺激にはならないんだと思います。いくら大会に勝ったとしても、一緒になって応援して、目の当たりにして、あの雰囲気を体験するのとしないのとでは全然違う。そのときにアカデミーの拠点さえあれば、たとえばクラブユースの大会でも拠点として相手チームを呼べるから、そこで色々なものが繋がれる拠点にすることができるわけです。鹿島などのクラブは実際にそうしています。ここの場所、ここの時間は必ず使える、その効果はすごく大きい」

――場所を拠点にして、栃木愛というものを作っていくのは簡単な話ではないけれど、作っていこうと。

「地域の選手を上にあげて、トップの選手の大多数を占めるなんて、ほかのJリーグのチームでもそうはないと思います。でも、そういうことにチャレンジするべきだと思うんです。トライすべきです。それが本来の在り方だと思うんです。ヨーロッパをみたら、そうです。やらない手はない。できないことはないと思っています」

――たとえばトップチームにアカデミーから7割。あとは補強に外国人を入れて、というような。

「まあ7割はちょっと言いすぎかもしれませんが(笑)、少なくとも半分は占めるようにもっていきたい。でも、それを具体的に数字に出しているかというとそこまではしていませんが、絶対にできるんですよ。栃木のアカデミーから外に出ている選手もいるので、その目標を達成するためには栃木SCからだけじゃなくてもいい。他のクラブや学校の選手も栃木SCのトップチームに行くという流れがもっとできてくればそれでいいんです。そのためには拠点があればもっと交流できるわけじゃないですか。今はその繋がりが少ないですよ」

――栃木愛というのは栃木SCのアカデミーだけではないんですね。

「我々だけでは絶対に無理なので。他のチームがジュニア年代に一生懸命育ててくれた選手がジュニアユースに入ってくるから栃木SCのアカデミーは成り立つわけで、(栃木SCの)ジュニアの選手だけでは成り立たない。そうやってみんなで育てた選手がここに来てくれたならば、僕らはその選手を一生懸命に育てていく。それしかないんですが、ただ、だからといって、僕らが強くなるために県外の強豪チームとばかり練習試合をやれればそれでいいかといったら、そういうわけではない。僕らが県内のチームと戦う場所を作って、そういうチームに経験を還元することも必要です。僕らも、県内の他のチームが成長するためにやろうとするように、そういう立場にいなくちゃいけない」

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