【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第71回 曲がり角を迎えるWEリーグ(24.10.16)
4シーズン目を迎えたWEリーグは苦境に立たされている。
1試合平均入場者数は、2021‐22シーズンが1560人、2022‐23シーズンが1401人、2023‐24シーズンが1723人。今季はここまで1792人だ。目標とした5000人には遠く及ばない。
9月に2代目の髙田春奈チェアが退任し、Jリーグの野々村芳和チェアマンをトップに迎え、副理事長にJFAの宮本恒靖会長を置く新体制となった。日本の女性活躍社会を牽引すべく発足したWEリーグにとって、小さくない挫折である。
この日、西が丘には2036人の観客が集まった。全体のなかでは健闘している部類に入る。ベレーザは観る価値のあるサッカーをしているというのが僕の率直な感想だ。
記者会見で、松田岳夫監督に訊ねた。存続が危ぶまれる事態となっているWEリーグにおいて、現場から発信力を高めていくのは可能なのか、現状に対してどう感じているのか聞かせてほしい、と。
本来、試合直後にぶつける質問ではないが、ひとりのプロ監督が公の場で発言することに意味があり、松田監督ならさばいてくれるだろうと考えた。
「選手はできるだけよいパフォーマンスを出すしかないんですけれども、いまは男子を含めて世界的に縦に速い、フィジカルが前面に出るサッカーになっています。 やはり、女子の場合はパスの本数が多くなり、スピード感は見劣るかもしれませんが、男子にはないよさを見ていて感じてもらえると思うんですね。そこは売りにしていかなければいけない。
もうひとつ、世界に近いというところで、ワールドカップとオリンピックの1、 2年間に集約され、その間に何ができるかというのをわれわれは考えていく必要がある。女子代表が世界大会で好成績を残し、結果的にWEリーグが盛り上がる。それだけを待っていても絶対に無理だなというのは感じます。
そのために何をするのか。正直、現時点でこれだというのは思い浮かばないですね。この魅力を最大限打ち出していくしかないのかなと」
会見後、「ちょっと話が難しいですよ」と笑いながら松田監督がやってきた。「この西が丘でゲームを観てもらったらね。少しは、なかなかだなって感じてくれる人はいると思うんですけど」と補足。たしかに西が丘の臨場感は武器になる。
11月2日のWEリーグ第7節、AC長野パルセイロ・レディース戦(15:00 味の素フィールド西が丘)に向けて、「木下桃香の西が丘に集合じゃ!」プロジェクトが始動している。
木下はこう語った。
「コンセプトとしては、とにかく人数を集めるというより、雰囲気づくりや場をつくることにフォーカスしています。WEリーグで西が丘に一番お客さんが入った試合が、今季開幕の浦和戦(0‐2●)で約2900人(※2921人)。だから、それぐらいは入ってくれたらいいなと。
サッカー選手なのでプレーで示すのは当然として、 それだけでは足りないなというのは本当に感じます。選手が何かを企画するとかではなくても、個人レベルの発信力を高めることはできる。今回を機に自分もSNSを始め、大きな反響をいただきました。チームに関係なく、一人ひとりができることをやって、知ってくれる人を増やしていくことが大事だと思いますね」
ベレーザに対する、思い入れの強さで知られる選手である。以前は「代表や海外より、自分にはベレーザが一番」と公言した。だが、近年は女子サッカーの世界でも、より高いレベルを求めて欧米に渡る選手が急速に増えている。
「海外移籍の前例が多く出てきて、そういう道もあるんだと興味の視野は広がった感じがします。いままではベレーザしか見ていなかったんですけど、知っている選手が海外にいったり、その試合を観たりして、身近に感じられる環境にはなっていますね。ただ、まだベレーザがWEリーグで優勝したことがないので。タイトルを獲りたい、獲らなければいけない。そうしないことには、なかなか次のことを考えられない状況です」
僕がメディアの立場から感じるのは、監督や選手の肉声が圧倒的に足りないということだ。ピッチでの輝き、放出されるエネルギー、そして暗く沈んだ部分を含めて、戦う女性の生々しさがもっとあってもいい。WEリーグは理念先行型で、見せたいものだけを見てほしいという姿勢に感じられる。
どうすれば、この素材の魅力を生かし、広く伝えられるのか。それを探しにまた西が丘へと通うことになる。