「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【この人を見よ!】vol.50 試練が彼を強くする ~GK1 マテウス~(23.4.5)

東京ヴェルディのゴールマウスにこの人あり。2020シーズンの加入以降、一時期を除いてゴールを守り続けているマテウスだ。
的確なポジショニング、クロスへの飛び出し、驚異的な反応でシュートストップ。数々の決定的なピンチを防ぎ、今季7試合でわずか1失点の堅守を支える中心選手である。
ブラジル・サンパウロ州の名門コリンチャンスでキャリアを歩み始めたマテウスは、日本に新天地を求め、いかにして現在のパフォーマンスを手にしたのか。ひとりのパウリスタが歩んだ道のりは複雑に曲がりくねっていた。

■在庫処分のトッパーの練習着

2023年4月1日、J2第7節の大宮アルディージャ戦、東京ヴェルディの1点リードでゲームは終盤へ。勝点3が見えてきた終了間際、東京Vのゴール前は危機にさらされた。

88分、フリーでボックスに侵入した大山啓輔がシュートを放ち、マテウスが横っ跳びではじき出す。アディショナルタイム、大宮のフリーキックの流れからゴール前の混戦となったが、マテウスは難しいバウンドのボールを落ち着いて処理した。

最後の砦であるゴールキーパーの大仕事がなければ、結果はまるで違ったものになったかもしれない。そうやって胸をなで下ろすのは昨日今日の話ではない。毎試合のように被決定機を防ぐビッグセーブがあり、もっと言えばレギュラーに返り咲いた昨季の後半から、安定して高いパフォーマンスを維持している。

2020年、マテウスが東京Vに加入してから4年目のシーズンに入った。セービングは凄みすら感じさせ、背番号1がひと際大きく見える。

マテウス・ヴィドットはブラジル・サンパウロ州の中心部に近いイピランガで育った。1822年、ドン・ペドロ王子がポルトガルからの独立を宣言した地として知られ、イピランガ公園にそびえ立つ英雄の独立記念像は町のシンボルだ。

SCコリンチャンス・パウリスタのアカデミーに入ったのは12歳のときだった。チームにはレギュラー格と目されるキーパーが2名、マテウスを含む在籍歴の浅い選手が6名いた。ユニフォームサプライヤーがトッパーからナイキに切り替わった時期で、前者は真新しいナイキの練習着に身を包み、後者は在庫処分のトッパーのウェアをあてがわれた。

この扱いの差を面白くないと眺めていた人物がいる。マテウスの父である。

「父親はとても厳しい人で、面と向かって褒められた記憶はほとんどないです。僕がキーパーになったのは父の勧め。おまえはフィールドプレーヤーに向いてない。プロになりたかったらキーパーをやれ、とね。一方、母が家のことをコントロールし、さまざまな面でバランスを取ってくれていました。ブラジルを離れてから、特別な日に母が出してくれた手づくりのケーキの味を懐かしく思い出します。節制が必要だから、あまり甘いものは食べられないのだけど」

そう言ってマテウスは笑った。厳格な態度を崩さず、甘い顔を見せなかった父が、コリンチャンスに入ったことを知人友人にうれしそうに語っていたのを、息子は人づてに聞いて知っている。

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