「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【トピックス】検証ルポ『2022シーズン 緑の轍』第二章  江尻篤彦「そこに夢がなければ人は動かない」(22.11.25)

チームづくりを主導する江尻篤彦強化部長。来季は集大成の3年目になる。

チームづくりを主導する江尻篤彦強化部長。来季は集大成の3年目を迎える。

第二章 江尻篤彦「そこに夢がなければ人は動かない」

■ベクトルを束ね、うねりをつくり出すために

4月9日のJ2第9節、東京ヴェルディはロアッソ熊本に2‐3で敗れ、今季9戦目にして初黒星を喫した。

翌週、AGFフィールド(味の素スタジアム西競技場)でのトレーニング。選手たちの様子を観察する江尻篤彦強化部長の横で、僕はピッチにカメラを向けていた。

「今季が始まり、全チームの戦いぶりを見てきたなかで、熊本は特に質が高いと感じました。J3から上がってきたばかりとはいえ、じつにいいチームですよ。シーズン序盤、負けなしできた自分たちが、やられるとすればここかなという懸念は少しありました。負けたこと自体は構わない。ただし、負け方が問題だった」

僕は現状の力を出したうえでの敗戦、相手にやり込められた結果と受け止めていた。だが、江尻強化部長の捉え方は違う。

「あそこまでプレスがハマらなかったゲームは初めて。結果、前からいけずに後ろに引く形となり、危険な位置でのネガティブトランジションが多くなってミスが出た。本来、キャンプの時期から縦ズレ、横ズレをカンカンッと連続し、ボールを追い込んでいく守備に取り組んできたチームです。つまり、戦い方のベースが崩れてしまっての敗戦。負けたことはさておき、それだけは看過できない」

江尻強化部長は堀孝史監督に対して「あのゲーム内容は受け入れられない」とストレートに伝えたという。

こうしてざっくばらんに対話をしながら、あらためて僕はずいぶんと変わった人だなという思いを強くする。強化のトップという要職にあって、ここまであけすけに語るオープンマインドな人物は稀有だ。そもそもコミュニケーション自体が成り立たない(こちらの責任もあろうが)、成り立たせようとしない手合いが珍しくない。

腹に一物、背に荷物。大半がその手のタイプで、またそういう性質、気質の人物でなければ務まらない仕事だと理解していた。

江尻強化部長は言う。

「どんなクラブの在り方を目指し、何を課題と捉え、目標に向かってどのようにアプローチしようとしているのか。成功、失敗を含めて説明できることに関しては、包み隠さず皆さんに伝えたほうがいい。それが自分の考えです」

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