「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【トピックス】検証ルポ『2022シーズン 緑の轍』序章(22.11.14)

2022シーズン、東京ヴェルディは勝点61(16勝13分13敗、得点62失点55得失点+7)の9位に終わる。最後は6連勝で一気に勝点を積み上げ、6位内のプレーオフ出場圏に迫ったが、追い上げ及ばずにピリオドを打った。
8戦負けなしのスタートダッシュを決め、一時は2位につけた。川崎フロンターレ、ジュビロ磐田を破って、18年ぶりの天皇杯ベスト8進出。そして、終盤の快進撃。胸躍る出来事があった一方、シーズンを通して見れば力不足だったのが事実である。
時代とともにサッカーは移り変わり、J2もまた数年前とは様変わりしている。より厳しさを増した競争を勝ち抜くために手持ちのカードを吟味したうえ、どこに磨きをかけ、発想を転換し、時には何を捨てなければならないのか。多くの示唆に富んだシーズンを経験した。

 序章 サッカー小僧の群れ

2022年10月23日、J2最終節。昼過ぎ、飛田給駅の改札出口は大勢の人でごった返していた。

ここで、味の素スタジアムに通い慣れた人ならおおよそ察しがつく。隣の武蔵野の森総合スポーツプラザで何かイベントがあるのだろうと。その風体、身につけている物からしてどうやらアニメ関係のイベントらしい(アイドルマスターのライブだった)。

駅前の人混みを抜け、味の素スタジアムまでの1本道を歩く。報道受付を通ると、スタジアムの内部はひっそりと静まり返っていた。先週、すでにJ1昇格を決めて優勝決定の懸かっていたアルビレックス新潟戦の熱気とはえらい違いである。これが何もないチームの現実だ。

この日の相手、ファジアーノ岡山は3位が確定し、J1参入プレーオフに向けて態勢を整えている。東京ヴェルディは前節の新潟戦を1‐0で勝利してプレーオフ出場への望みをつないだが、翌日にはその可能性も消えた。当事者以外、注目ポイントを見出すのが難しい。

シーズンを締めくくるホームラストマッチ、東京Vはメインスポンサーの『ニチガスDAY』や『VERDY THANK YOU FES.』を開催し、今季3番目に多い9239人の入場者を集めた。ゴール裏には〈2023シーズンはもう始まっている。〉と大書された横断幕が掲げられている。

城福浩監督から「今日は本当の悔しさを味わうために戦う。それを知るために勝つぞ」と送り出された選手たちはピッチで躍動し、河村慶人、佐藤凌我のゴールで2‐0の勝利。6連勝&5試合連続クリーンシートで今季の戦いを終えた。すっきりと広がる秋晴れの空を、僕はギザギザな気持ちで見上げた。

週が明けてからも東京Vのトレーニングは続いた。例年、シーズン終了後のトレーニングは若手主体で行い、ほどなくして解散式、納会を経てオフに入るという流れである。ところが、今年は史上初の冬のFIFAワールドカップ開催の影響を受け、扱いに苦慮する空白期間が生じた。

当面の目標はなく、メンバーに入るための競争もない。ひとつも落とせない状況に追い込まれた終盤戦、バックアップの選手たちは自身のアピールよりも次の対戦相手のやり方を忠実に実行することに徹した。いまとなっては、チームのためにそういった犠牲を払う必要もない。

プレッシャーから解放された選手たちは、サッカー小僧の群れである。思いのままにボールを操り、目の前の相手をまんまと出し抜いて、はじけるように笑う。城福監督の言う「重圧のなかでプレーすることが、ある意味で本当のサッカー。重圧のなかでもやれるのがプロ」とはまったくその通りだと思うが、精神を遊ばせる時間もなければ身がもたない。

ひとつの戦いが終わり、誰もが心に大小のスクラッチを残す。サッカーを生業とする彼らにとって、成長の下地は常に傷だらけだ。ひとつずつを丁寧に癒しているひまはない。より高みを目指し、次のシーズンへと向かっていく。

 

(検証ルポ『2022シーズン 緑の轍』序章、了)

 

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