大宮花伝

埼玉県立では初!浦和西高校がグラウンドに人工芝を導入。費用は全額寄付でついに完成。名門・サッカー部の“西高”を再び全国へーー【番外編の巻】

 

市原前監督が発案して実現

県立初の取り組みで古豪復権へ−−。

サッカーの名門・浦和西高校がグラウンドに人工芝を導入した。埼玉県立で校庭を人工芝に変えたのは初めてとなる。今年7月上旬から土壌の改良工事などが始まり、9月末に完了。落成式が行われて、サッカー部員や指導者らにお披露目された。

浦和西高校のサッカー部は1950年に創部し、56年には全国高校サッカー選手権で初優勝。65年の岐阜国体でも頂点に立った。OBには元日本代表でメキシコ五輪メダリストの鈴木良三氏や、日本代表監督を務めた西野朗氏らがいる県内有数の名門だ。

今回の人工芝化は2019年8月9日、同校サッカー部の市原雄心前監督(現南稜高校サッカー部コーチ)が在任中に第一声を上げ、プロジェクトがスタート。また、工事費用は全額寄付で賄うため同校OB会が母体の一般社団法人UNSSも設立して実現に向けて動き出した。

活動当初は「無理だ、無理だと言われましたよ」と市原前監督。それはそのはずだろう。人工芝のグラウンドは私立勢が率先して導入し、公立勢ではさいたま市立の浦和南高校が先陣を切った。そういった前例があったものの、県立勢にとって道は険しかった。

全額寄付ということも初めてで、金額も5500万円となかなか高額。一方、人工芝化が成功すればサッカー部の練習環境だけでなく、全校生徒の運動環境も向上する。近隣住民にとっては災害時の防災拠点として使えるなど多くの利点があった。

市原前監督は埼玉県や学校関係者らと交渉を進めながら、スポンサーの獲得にも奔走。その姿を見た同校時代の同級生や先輩、後輩たちが自然と集まり、市原前監督は「後押しをしてくれて『やれる』という雰囲気になってきたんです」と振り返る。

途中でコロナ禍に見舞われたが、今年2月には目標金額を達成。同校OBが経営する武蔵コーポレーションなどが大口の寄付をしてくれたという。その後、工事費の高騰、人工芝敷設面積拡大の必要があり、目標金額を7000万円に再設定。これも6月に達成できた。

 


(左から)テープカットする浦和西高校サッカー部の加藤洋行コーチ、加藤写真代表の霜田雅也氏、OB会副会長の野間薫氏、キャプテンの矢澤悠人選手、木村設備代表の佐野準氏

 

落成式でお披露目された人工芝は青々とし、本当にきれいでまぶしいくらい。土が踏み固められ、水捌けの悪かったグラウンドの面影はない。人工芝は積水樹脂のドリームターフで耐久性にすぐれ、全国各地の学校や運動施設で使用されている人気シリーズだ。

挨拶に立ったOB会副会長で埼玉県サッカー協会評議員の野間薫氏は西野氏の同期。当時の様子を紹介し、「感謝の気持ちを胸にしっかり留めて懸命にトレーニングを励み、成績が向上をすることを熱望しております」と在校生に伝えた。

協力企業の代表には株式会社加藤写真代表の霜田雅也氏が登壇。若い世代をサポートする思いを語り、「このグラウンドを使っていただいて、必死にやるということを学んで、今はがむしゃらに自分の夢を追い掛けて未来につなげてください」と期待を寄せた。

同じく協力企業の知求塾代表でOBの田代功治氏は高校時代の自身を「同期と切磋琢磨して、いろいろ楽しいことも悔しいことも濃い経験をしました」と回想。その恩返しの意味も込めて寄付に参加し、「時間を有効に使って頑張ってください」とエールを送った。

同校サッカー部キャプテンの矢澤悠人(はると)選手は感謝の言葉をつむいだ。「自分たちがこのグラウンドで練習できることを当たり前だと思わず、プロジェクトに関係し、協力していただいたみなさんへの感謝の気持ちを胸に精進していきたいと思います」。

グラウンドで初練習もし、「景色も違って、芝はふかふかで最高です」と笑顔。環境が整ったことで「言い訳は通じない」と気持ちを新たにする。整備の仕方も変わるなか、「感謝の気持ちがわいてくる。結果で恩返ししたいです」とチームメートとともに汗を流した。

人工芝プロジェクトの先頭に立ち、最大の功労者と言える市原前監督も感慨はひとしおだろう。同校サッカー部OBでもあって母校愛を持って発案し、情熱と行動力で仲間を増やして有言実行。約5年をかけ、創部74年の伝統に1ページを刻んだ。

市原前監督は「このグラウンドには歴史が詰まっている。先輩方の熱い想いやエネルギーが詰まったグラウンドに感謝し、まずは再び全国大会出場を」と願う。「そして、現役部員の皆さんが切磋琢磨し、新しい西高の歴史を積み重ねていくことを期待しています」。

近年の浦和西高校は2017年に30年ぶりに高校総体出場。その後へ続き、西高の名を以前のように全国区にするためにも人工芝化は大きな力となってくれる。人工芝化を考える県立高校にとっても突破口になったはずで、“県立初”の好影響は計り知れない。

次のページ

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ