「ゼルビアTimes」郡司聡

【★無料公開】最後の選手権はベスト8で幕。黒田剛総監督「絶対に町田で1年で昇格してやるという闘志がメラメラと湧き上がってきた」【高校選手権レポート】

◾️第101回全国高校サッカー選手権大会準々決勝
2023年1月4日(水)14:10KICK OFF・等々力陸上競技場/11,336人
青森山田 1-2 神村学園(1-0、0-2/40分ハーフ)
【得点者】青森山田/34分 中山竜之介 神村学園/56分 西丸道人、60分 福田師王

(マッチサマリー)
“事実上の決勝戦”と目された前年優勝校の青森山田と大会No.1ストライカー福田師王を擁する神村学園による準々決勝は、白熱の攻防となった。

先制点は34分。青森山田のFW小湊絆が右サイドを切り裂き、ボックス内のMF中山竜之介へパスを通すと、中山が相手DFにブロックされたこぼれ球を押し込み、ディフェンディングチャンピオンが先制した。

1−0と山田リードで折り返した後半は1点を追う神村学園がフルスロットルで反撃。1点が遠かったが、56分に山田の小湊がビッグチャンスを逃した隙を見逃さず、直後のゴールキックからFW西丸道人が個人技で同点ゴールをこじ開けた。

さらに同点直後の60分には山田がビッグチャンスを逸すると、神村学園が再び“ピンチの後にチャンスあり”で決勝点を奪取。勝負を決めたのは、卒業後、ドイツ・ブンデスリーガのボルシアMG加入が内定している福田だった。

「2度のビッグチャンスの後に2度も決められた。決めるべき場面で決められなかったことがこの結果になった」

正木昌宣監督がそう振り返ったように、神村学園の勝負強さが光る結果となった。

 

2022年12月7日、会見時の黒田剛青森山田総監督

▼試合終了の瞬間は…

1−2での試合終了を告げるホイッスルが鳴った瞬間、青森山田の黒田剛総監督はベンチに深々と座ったままだった。チームの指揮権が正木昌宣監督に移ったため、指揮官をサポートする立場に回っていた黒田総監督にとっては、必然のシチュエーション。実際にテクニカルエリアまで飛び出し、個別の選手に初めて指示を出すまで、27分の時間を要した。トータルの回数は、片手の指の本数にも至らず。「性格的にいろいろな指示を出したい気持ちを抑えながら」、試合終了の瞬間を初めてと言っていいベンチで迎えた。“最期の瞬間”を黒田総監督はこう振り返る。

「ついに終わったなという気持ちと、テクニカルエリアには一人しか出ていけない状況の中で、敗戦をベンチに座って見ることはなかったので、複雑な心境です。コーチって、こういう心境なのかなと。監督以外のスタッフの気持ちが良く分かりました」

最後の選手権を連覇という“有終の美”で飾りたかったが、そこは身に沁みている勝負の世界。「優勝で終わりたかったが、そう甘いものではないことも分かっていましたし、自分自身もあらためて気を引き締めてプロの世界に飛び込める」。潔く、敗戦を受け入れるしかなかった。

試合後のミックスゾーン。キャプテンとしてチームをまとめてきた多久島良紀は「黒田総監督を笑顔で送り出せなかったことが悔しい」と大粒の涙を流した。黒田総監督も山田での28年間が走馬灯のようにフラッシュバックしたのだろう。TVクルーに向けた取材の段階で目には光るものがあった。ところが、感傷に浸る様子を見せたのは、ほんの一瞬に過ぎなかった。

「今日負けた悔しさを持って、絶対に町田で1年で昇格してやるという闘志がメラメラと湧き上がってきました。最高の勝負ができるように、入念な準備をしていきたいです」

選手権後、“町田モード”に切り替えることを宣言していた男らしいふるまいーー。ペン記者に囲まれた頃には、すでに、勝負師の顔に戻っていた。

Text by 郡司 聡(Satoshi GUNJI)

※写真はイメージです

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ