デイリーホーリーホック

天皇杯2回戦レノファ山口FC戦 「平均年齢21.0歳の若龍たちが躍動! それぞれの“チャンス”を活かし、ゴールをこじ開けて公式戦連勝を達成」【レビュー】

【写真 水戸ホーリーホック】

「ラストチャンス」と「ファーストチャンス」

「今日がラストチャンスだと思っていました」
安永玲央はこの一戦に向けての心境を明かした。
開幕からボランチとしてスタメン出場を続けてきたが、直近6試合での出場は1試合。出場時間もわずか28分にとどまっている。「チームの中心ということをキャンプの時から言われていた」と期待を感じていたからこそ、現在置かれている立場に忸怩たる思いを抱いていた。ただ、それは自分が招いた状況でもあることも理解していた。だからこそ、この天皇杯をきっかけに再び這い上がってみせる。そんな気概を持って試合に挑んだ。そして、多くの選手が同じ思いでピッチに立ったことだろう。

一方、「ファーストチャンス」を得た選手たちもいた。それがトップ昇格後初となる公式戦出場を飾った内田優晟とユース所属ながらも二種登録選手として先発出場を果たした吉井拓真だ。

内田はユース時代の昨年に同大会で公式戦デビューをしているものの、トップ昇格後は初めての経験。けがで出遅れるなど、順風満帆な日々を過ごせたわけではないが、「天皇杯に目標にコンディションを上げてアピールしてほしいとスタッフから言われていました」と振り返るように、この日に照準を合わせて準備を行ってきた。そして、負傷者が相次いでいる右サイドバックとして起用されたのが吉井。人生を変える大きなチャンスが訪れたと捉えて、この日を迎えたことだろう。

先発平均年齢21.0歳。前節大宮戦から中3日で行われたカップ戦の初戦には、若い選手たちが名を連ねたが、それぞれが異なる「チャンス」として受け止めてこの一戦を迎えた。往々にして、それらの思いはバラバラになりがちだが、この試合の水戸は違った。この一戦に対する思いを一つにまとめ、その上で選手個々が最大限のパフォーマンスを発揮することができたのだ。「試合前からみんな気持ちが入っていた。『俺を使え!』というものは示せたと思います」と安永は胸を張った。

それこそが、今季の水戸に最も足りなかった要素と言える。試合の中で意志の統一をしきれず、崩れてしまって勝ち点を落とす試合を続けてきた。だからこそ、ユース所属選手もいる中でも意志を統一して戦い抜いて勝利を手にしたことにこそ、意義があると言える。着実に高まっているチームの一体感が、リーグ戦の出場が乏しいメンバーにも浸透していることを証明する大きな価値のある勝利と言えるだろう。

若さを不安視する声を払拭

序盤から“若龍たち”の勢いが山口を圧倒した。果敢にハイプレスをかけて、山口のビルドアップを封じこめて、ボール奪取を繰り返して山口ゴールに襲い掛かった。8分に右サイドに流れた新里涼からのクロスを鵜木郁哉がヘディングで合わせるもGKの好セーブに阻まれ、11分には左CKの流れからファーサイドでボールを受けた柳町魁耀が鋭い切り返しからシュートを放ったが、再びGKに防がれてしまった。

その後も水戸ペースで試合は進み、前半を終えた。後半序盤こそ山口にチャンスを与える場面が続いたが、61分に安藤瑞季と小原基樹、67分に村田航一と髙岸憲伸を投入すると、流れは一気に水戸に傾き、一方的に攻め込む時間が続いた。

ただ、リーグ戦同様、5-4-1システムでゴール前に人数を固める山口の守備を攻略できず、攻めあぐねる時間が続いた。攻めても、攻めても、ゴールを決めきることが出来ず、そのまま延長戦突入の可能性も頭によぎり始めてきた88分、ついに均衡が破られた。

引いて守備をする相手に対して、最終ラインでテンポよくボールを動かして揺さぶりながら、山田奈央が右サイドにロングフィード。走り込んだ鵜木が巧みなファーストタッチでマーカーを振り切ってゴール前に折り返し。逆サイドから猛然とゴール前に走り込んできた唐山翔自が押し込んで、山口ゴールをこじ開けたのだ。

守備的な相手に対して焦れることなく試合を運びながら、最後にゴールを決めてみせた。拮抗した展開で勝利をもぎ取った前節大宮戦から続く流れに「試合運び」に課題を抱えてきたチームの成長を感じずにはいられなかった。
「ベテラン不在」
「リーダー不在」
結果が出ないチームに対して、そういった問題点が浮き彫りとなることもあったが、若い選手たちでも当事者意識と自覚を持つことができれば、チームを一つにすることができる。若さに対して不安視する“声”を払拭しようと奮起した選手たちの姿に、このチームの希望を感じずにはいられなかった。

出場した全選手が持ち味を存分に発揮して、「チャンス」を活かした。「チームの底上げをしながら連勝できたことは大きい」と濱崎芳己監督は久々に笑みをこぼした。苦しみ続けてきたチームに確かな一筋の光が差し込んできており、巻き返しへの準備は整いつつある。苦しんだ分だけ強くなった姿を、ここから見せてもらいたい。その期待を今までよりも強く感じさせてくれる勝利であった。

(佐藤拓也)

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