デイリーホーリーホック

「どうやってエージェント等に頼らず、自力でイングランドのクラブと契約したのか。“外国人選手”としてプレーする、水戸ユースOB手塚文登のイングランド奮闘記」(後編)【インタビュー】※無料公開

Q.チーム探しはどうなったのでしょうか?
「チームを探そうと思って動き始めたのが10月前半。結局、入団するまで1カ月ぐらいかかりました。それまでにやったことは、まず個サル(個人参加型フットサル)のイングランド版みたいな場所に積極的に顔を出して、ボールを蹴っていました。コンディションを上げるためでもあったのですが、チーム探しの情報を集めることが一番の目的でした。関係者風な人がいたら、とにかく『チームを探しているんだけど、知らないか』という話をしました。もちろん、『知らない』という人が多かったんですけど、連絡先を交換してくれる人もいました。それを続けていって、徐々にいろんなつながりができていって、何回か参加した時に『俺はチームに所属しているから来ていいよ』と言ってくれる人がいたんです。それからイングランドにはチームがたくさんあるということにも気づきはじめて、ブライトン周辺に、どういうチームがあるかを調べ切って、次は自分が動く番だと思って、自分のプロフィールとプレー動画を20チームに送ったんです。返答が来たチームに行こうと思っていたところ、ワージングユナイテッドFCというチームから返信が来たんです。探し始めてから2~3週間ぐらいですね。しかも、『明日試合があるから見に来てくれないか』と書いてあって、『こんないい話はないな』ということで、さっそく試合を行くことにしました。そしたら、オーナーが温かく迎え入れてくれたんですよ。しかも、ご飯や飲み物もごちそうになってしまいました。実際、試合を見て、『やれそう』という自信もありました。試合が終わった後、オーナーと監督が僕のところに来て、『次の練習に来てくれ』と言ってくれたんです。その練習に参加したところ、練習後にサインをしました」

Q.チームのレベルは?
「試合を見た時は『あまりレベルは高くない』と思ったんですけど、実際にプレーしてみたら、そんなことはなかった。あのまま大学のサッカー部に残るより、間違いなくこっちでサッカーした方がいいなと思えるレベルでした」

Q.ワージングユナイテッドFCは何部リーグのチームなんですか?
「8部だと思います。全国リーグではなくて、イングランドの南部地区のリーグになります」

Q.どんな契約なのでしょうか?
「アマチュア契約です。観光ビザなので、お金をもらうことはできないんです」

Q.どんなクラブなのでしょうか?
「結構歴史のあるクラブですね。日本と違うと思ったのは、小さなクラブでも必ずクラブハウスとスタンド付きのグラウンドがあるんです。ワージングユナイテッドだけでなく、どこのクラブも必ずあります。そこで毎週末試合が開催されて、試合がある時には町の人たちが集まる。試合会場では屋台が出ますし、お客さんはチケットを買って試合を見てくれます。町の人たちが集まってビールを飲みながら試合を見るという文化が根付いてるんです。そして、そのクラブのエンブレムのついたグッズを身につけた人たちが応援してくれる。そういうカルチャーが根付いているところに日本との違いを感じました。地域とチームのつながりが日本よりはるかに深いように感じました」

Q.根付き方が違う?
「生活の一部になっている。町を歩けば、クラブのグッズをつけた服を着ている人がたくさんいます。バス停で会ったおばあちゃんに話かけたら、ブライトンのサポーターで、しかもシーズンパスポートを持っている方だったんです。そこで試合の話で盛り上がってしまいました。おばあちゃんがそんなに熱くサッカーを語る姿に衝撃を受けました。老若男女にサッカーが根付いている」

Q.実際プレーしてみていかがですか?
「試合に出るために、国際移籍証明書が必要だったんです。その証明書が下りるまで、1週間から数カ月かかるみたいなんです。それを待つ時間がありました。でも、日本サッカー協会が迅速に対応してくれたおかげで、2週間後ぐらいに証明書が届いて、直後の試合でメンバー入りをしました。最初の試合はリーグ首位との試合で、まず文化の違いというか、新加入選手は試合前にロッカーで歌を歌わないといけないという伝統があるみたいなんです。僕は言語の壁もあって、チームに馴染めていない感覚があったので、いい機会だと思って、思い切りエドシーランの曲を熱唱したら、一気にチームメイトとの仲が深まったんですよ。そこから受け入れられている実感がありました。試合は後半から出場して、逆転勝利をおさめたんです。いい形でデビュー戦を飾れて、いい経験をすることができました」

Q.デビュー戦後はどうでしたか?
「ベンチスタートが2試合続いて、その次の試合で先発出場しました。その試合のパフォーマンスがよくて、自分が通用するという手ごたえをつかみはじめました」

Q.チームメイトは全員イングランド人?
「そうです。僕が決めていたのは、日本人がいないチームでプレーしようということ。日本人が1人のチームでプレーすることによって見えてくるものがあると思ったんです。外国人選手としてプレーすることで見えてくるものがあるだろうと思っていていました。エージェントを使わずに海外のチームに行きたかったのも、それが理由にあります」

Q.チームメイトとは英語で会話しているのでしょうか?
「みんな、すごく話しかけてくれるんですよ。僕がイングランドに来たタイミングで、三笘選手が活躍しはじめたことも大きかったと思います。三笘選手の話を聞いてくる選手も多いですし、三笘選手の影響で日本人や僕に興味を持ってくれる選手も増えました。ブライトンに行ってよかったなと思っています。あと、ワールドカップで日本代表がスペイン代表とドイツ代表に勝ったことも、受け入れられるようになった一つの要因となりました。チームメイトもみんな日本を応援してくれたんです。イングランドにとって、ドイツとスペインはライバルですから、そこに勝ったことによって、チームに溶け込むことができました。すごくいいタイミングで入ることができたなと感じています」

※手塚選手が通ったフットサル場

※イングランドの地でワールドカップを体感。大きな刺激となった。

Q.ワージングユナイテッドの選手はプロを目指している選手が多いんですか?
「イングランドの選手は個人昇格というより、チーム昇格というか、チームのために戦うという思いが強い。個人個人がどこを目指しているか分かりませんが、『チームに対する思いが強い』という言葉では表せないぐらい、チームのためにファイトします。リーグ戦で負けた後、ロッカールームで下を向いて泣いている選手が何人もいます。また、ある試合でヒートアップした相手チーム選手が僕たちのチームメイトに飛び蹴りしてきたことがありました。そこでも仲間のために、チームのために戦っていました。それぐらい、熱いんですよ。そういう光景を見ると、僕もチームのためにという思いがどんどん強くなりました。特に僕は外国人選手なので、周りの選手より活躍しないといけない。そういう思いが芽生えてきたのも、新たな成長だと感じています」

Q.勝利へのこだわりがイングランドサッカーの根幹にあるのでしょうね。
「たとえば、個サルでも、仲間同士で喧嘩することもありますし、けがをすることもある。誰も知らない人たちが集まったサッカーでも、本気でプレーする。それがイングランドなんですよ。そこに文化を感じますね。トップオブトップだけでなく、グラスルーツもそういう文化が根付いている。あと、日本人とイングランド人の違いとして感じるのは、イングランドの選手はみんな自分を持っている。コーチからの指示を否定することもあるんです。否定できる選手が多いことを感じています。日本人は否定できる選手が少ない。何に対しても、否定ができる。試合中、コーチの指示に対して、プレーが切れた時に『それはなぜだ?』と言い返して、選手の判断でプレーした方がうまくいくこともよくあります。芯の強さを持っている。それが日本人には足りないような気がします。サッカーだけど、サッカーより大事なことがある。それがないと選手としてやっていけないと思います。そういう点で、ワールドカップ後最初の公式戦で三笘選手が見せたワンプレーがすごく印象に残っています。カップ戦だったんですけど、三笘選手は後半から出てきて、最初のプレーでサイドでボールを受けたんです。サイドバックがオーバーラップしてきて、2対1の場面を作ったんですけど、そのタイミングでサイドバックを使わず、自分で仕掛けていったんです。「自分で行く」という意志を示したんですよ。ワールドカップでPKを失敗するような経験をしても弱気になることなく、自分を貫いた。そこに芯の強さを感じました。そういう強さがないとヨーロッパではサッカー選手としてやっていけないんだろうなと思いました」

Q.手塚選手自身は今後どういうビジョンを持っていますか?
「もちろん、プロを目指しています。でも、今はワージングユナイテッドのチームに貢献したい。そのためにプレーしたい思いが強い。その上で個人昇格がついてくるということにあらためて気づくことができました。水戸ユース時代はそういう思いでプレーできていましたけど、大学時代に薄れてしまったところがありました。そういう思いを取り戻すことができ、今はとにかくチームのためにプレーするという思いを持ってプレーしています。個人のことはその後ですね。あとは三笘選手と仲良くなりたいです(笑)。トッププレーヤーと接して、いろいろ学びたい。そのための関係を構築したいです。そして、これからもフットボールを学び続けたいです。」

Q.サッカーは学べていますか?
「学べています。外国人選手としてプレーすることの経験がとにかく大きいです。2試合連続スタメンした時、2試合目のパフォーマンスがよくなかったんです。プレーもそうですし、言語の問題もあって、周りからの声に対して、自分の意見をうまく伝えられなくて、前半で交代させられてしまったんです。その時はメンタル的に落ち込みました。でも、その次の練習での紅白戦の時、『プレーで見せるしかない』と思って挑みました。そして、僕がボールを奪って、数的優位の状況でカウンターを仕掛ける場面があったんです。今までだったら、周りをうまく使ってゴールにつなげようと考えていたと思うんですよ。でも、その時は一人で持ち上がって、ゴールを決めることができたんです。後から振り返った時、今までの自分ではそういう判断をしなかったと思いました。メンタル的に変化していることを感じました。自分がやらなきゃいけない立場だから、チームのためにやってやろうという気持ちがプレーに出たんだと思います。そこで選手としての幅が広がっていると実感できました」

Q.ユース時代はキャプテンでしたし、チームのことを考えてプレーしていました。その時とは異なる思いですか?
「当時はチーム全体のことを考えていて、エゴ的な部分はありませんでした。でも、エゴ的な面が芽生えてきて、より強い気持ちを持ってプレーできるようになった。それは今までにはありませんでした。日本の環境でそういう気持ちを持つのは難しかったかもしれません」

Q.今はイングランドでプレーしていますが、いずれ水戸でプレーしたい思いはある?
「あります。ブライトンを見て、地域とのつながりが強いチームが成長していることの面白さを感じています。地域との関わりが深いところも水戸と似ていると思いますし、若い選手を成長させて強くなっているブライトンのチームカラーも水戸に似ていると思うんです。この経験をいつか水戸に還元したいという思いは強いです」

※ワージングユナイテッドでの試合風景と練習場。そして、チームメイトたち。

(写真提供:手塚文登)
(取材・構成:佐藤拓也)

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