【無料記事】中央突破×サイドアタック。敗者なきJ2頂上決戦……2024-J2第33節・清水戦(A)マッチレビュー
▼2024明治安田生命J2リーグ 第33節
9月28日(土) 18:03キックオフ/国立競技場(55,598人)
清水エスパルス 1-1 横浜FC(Jリーグ公式サイト)
【得点】
56′ 横浜FC/ジョアン・パウロ
74′ 清水/宮本航汰
J2リーグ戦も残り6試合となった第33節。勝点71で首位の清水と、勝点70で2位の横浜FCとの一戦は、まるでこの状況を予想していたかのように、J2として今季唯一、国立競技場を舞台に行われた。
当日券も合わせて発券枚数は6万1千枚を超えたという。数日前までの雨予報の影響か、当日の入場者数は55,598人だったが、J2の歴代最多入場者数を大きく更新した。アウェイチームゴール裏を除いてスタンドはほぼオレンジに染まり、ホームサポーターの奏でるサンバが鳴り響く中で、井上潮音には「アップのときから横浜FCサポーターの声援がすごく聞こえていた」という。
中央突破の清水、サイドアタックの横浜FCと、両者のストロングポイントは対照的だ。両者が互いに相手のストロングを封じ続け、それでも自らのストロングでこじ開けた試合には、1対1のドローという結末が至極ふさわしいと思える。オレンジとハマブルーは、最高の舞台で、間違いなく今季J2最高峰のゲームを演じてみせた。
【選手交代】(横浜FCのみ)
68′ JP→カプリーニ、慶治朗→伊藤翔
78′ 中野→村田、髙橋→ソロモン
▼中央突破×サイドアタック
『FOOTBALL LAB』によれば、清水のJ2リーグ内における中央攻撃の指数はリーグトップ。トップ下に攻撃の中心となる乾貴士を擁していること、ルーカス・ブラガ、西澤健太、カルリーニョス・ジュニオらのサイドハーフも縦突破を得意とするウインガータイプではなく中に入ってのプレーを好むといった理由が考えられる。チームとしてクロス数はリーグで11位で、総得点に占めるクロスからの得点の割合は14.8%と多くない。
一方、横浜FCは四方田修平監督が就任して以来、ウイングバックを置いた[3-4-2-1]を基本フォーメーションとしてきたことからも分かるように、攻撃はワイドに幅を取ったサイドアタックを生命線としている。横浜FCのクロス数は1試合平均20.1本でリーグトップであり、クロスからの得点が23.1%を占める。意外と低い印象だが、横浜FCはセットプレーからの得点が32.1%と最も多いため、流れの中からのゴールに限定すれば36%がクロスからによるものだ。
中央突破は成功すればゴールが目の前なので、サイドアタックよりも得点になりやすい。清水の得点が多いのもそこだろう。ただし守備側も失点に直轄する中央突破だけはやられたくないから、真ん中に人数をかけて守りを固めるため、成功率は当然低くなる。よほど自分たちの戦力、技術に自信がなければこだわれない攻め方だ。
サイドならまだ突破されても失点には直結しないため、チームによっては“中ではね返せばいいからサイドからクロスは(どフリーでなければ)上げさせてもいい”と割り切った守り方をするチームもある。だからより攻め込みやすいサイドアタックを狙うチームは多い。“急がば回れ”である。
逆に攻撃が失敗してボールを失ったときのことを考えると、中央に人数をかけて奪われたらカウンターで大ピンチを招きやすい。一方サイドアタックであればかける人数も限られるし、カウンターからゴール前に侵入される方向も限られるため、ボールを奪われても(中央突破の失敗よりは)大ピンチにはなりにくい。横浜FCの失点が少なく、清水の失点が少なくない(とはいってもリーグ5位の少なさ)のは、そういうこともあるだろう。
もちろんどの監督も、建前上というか理想としては「どちらを重視ではなく両方で点を取れるチームでありたい」と言う。言うが、予算上の制約もあって理想のチームを作れるわけではないので、どうしてもどちらかに偏ることになり、どちらに偏るかは指揮官の性格が大きく左右する。どちらが良いとか悪いということではなく、堅実・慎重な四方田修平監督はサイドアタックを好み、水戸の監督時代から『超攻撃的に、獰猛に、超アグレッシブに』を掲げる秋葉忠宏監督は中央突破を好むということだ。
つまりこの試合は、J2最高峰の中央突破とサイドアタックの戦いでもあった。