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中村俊輔「クオーターバック。うん、悪くないじゃん」……プレーヤーズ・ファイル vol.1

 

▼「状況をいかに把握して、どう守るか、どう崩すか」

確かにリバック・プロジェクト戦は後半のほうが相手を圧倒した。「後半はある程度コントロールして、終始押し込んでやれたのは良かった。その辺は、やっぱり相手を見て、後ろから指示を出せる選手がいると、チームとしてはうまくいく時間が長くなる」と、指揮官は名前こそ出さなかったが、その仕事をこなした俊輔と高橋秀人らの貢献を讃えている。ただ、俊輔自身は必ずしも満足はしていない。

「昨日は相手のスタメンがすごく頑張ってたし、良いプレッシャーだったから。俺らだって前半からやってたらできないかもしれない。見えてるから蹴れる。でも、あのプレッシャーがきたら俺だって蹴れない。それが来たときに何ができるか、だから。それを個人個人だけじゃなくて、キーパーをもっと前に来させたりして、ビルドアップをしっかりする。相手が前から来たら蹴る。蹴ったときに前の人には反応してもらう。そういうコミュニケーションを取る。そうやってちょっとずつ作っていくしかない。そういう作業がいっぱいあって……」

「それを今やっているところ」だと俊輔は言う。最高のパスの出し手だからこそ、サッカーは一人ではできないこと、チームとしての意思統一の大切さを知っている。

「コンサドーレって、最初の10分はジャブじゃないけど、(ロングボールを)けっこう蹴るのよ。それでガンガン走るじゃん。すると相手の4バックはズルズル下がってくる。(こっちの)5バックはもっと前に行く。それで後ろは[4-1]でも、キーパーも入れて[5-1]でも、ビルドアップですんなり前に進めるというのがコンサドーレのやり方だから。[4-1]だけで『来てよ』というのは無理だよ(笑)。最初は後ろのゾーンをうまく使って相手を下げさせる。その作業がまだうまくできてないから、昨日(の前半)みたいに前から来られると詰まっちゃう。でもそれは選手同士で作ることだから。それもアピールだね」

中盤で自由に攻撃を操る司令塔から、最後尾の頭脳であり配球役へ。アメリカンフットボールで言うと……、と筆者が言いかけたところでニヤッと笑い、「クォーターバックだね」と俊輔は続けた。

「そういうイメージもあるよ。コンサドーレが相手を裏返すときとかそうでしょ。相手のCBがワントップが落ちたときに食いついちゃって、そこで右シャドーの小柏(剛)くんが走って、相手の左サイドバックは外を見てる(右ウイングバックの選手をマークしてる)から追いつかなくて、福森くんからスポーンとロングパスが入ったりとか。大事なのは、決められたことばかりを意識するんじゃなくて、ゲーム展開とか、そのときそのときのシチュエーションをいかに把握して、どう守るか、どう崩すか。あまりにも戦術を意識しすぎると、そういう即興性がなくなってしまう。そこが大事だと思うし、そこを忘れないようにしながら、このやり方にまず染まる。理解する。というのが大事かな」

「クオーターバック。うん、悪くないじゃん」と俊輔は繰り返した。マイボール時のビルドアップ、中盤から最終ラインに下りた俊輔がボールを持って前を向いた瞬間、両翼やシャドーが走りだす……まるでショットガンのような攻撃がまぶたに浮かんだ。「じゃあ今日はこんな感じで(笑)」。最後は笑ってバスに乗り込んでいった。

(写真と文/芥川和久)

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